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令和6年度 全国研修会レポート [テーマ別実践研修]
中学校音楽科・高等学校芸術科(音楽)[中高音3]:実施担当 東京藝術大学

研修概要

日程:令和6年10月3日(木)
講師:佐藤容子(声楽家)・前田拓郎(ピアニスト)・市川恵(東京藝術大学)
受講者数:34名(定員 50名)

テーマ

日本歌曲の特徴を捉え、歌唱表現を創意工夫しよう!

研修会の内容

本研修では,日本の歌を教材とし,それぞれの特徴を捉えながら,歌唱表現を工夫することを目指すとともに,歌唱実践を通して,教材研究の視点や学習改善,指導改善に結びつく方法を探究することを目的として実施された。
日本の歌は、中学校の教科書では歌唱共通教材として、高校での教科書においても日本歌曲として、校種を超えて掲載されている。
今回の研修では、両校種の教科書に掲載されている「赤とんぼ」「浜辺の歌」「夏の思い出」「花」を教材として、ソプラノの佐藤容子氏とピアニストの前田拓郎氏を中心に研修が進められた。
まず、佐藤容子氏による「詩を声に出して読み、⾔葉の理解を深める」というテーマのもとに、日本歌曲(日本の歌)の歌唱において、⽇本語の言葉の美しさを追求する方法の⼀つとして、詩の「黙読」と「朗読」の重要性が述べられた。
はじめから音をつけて歌うのではなく、縦書きの詩の「黙読」を通り、音楽を抜きにして言葉を声に出して読む「朗読」の⾏程を挟むことで、みるみる詩の背景が豊かになること、日本語が本来持つ「速度」や「音色」にも心を寄せることができ、美しい日本語歌唱へ大きく役立つことが語られた。
そして、歌唱のための美しい日本語を表現するには、最終的には楽譜から作曲家が描いた世界を探ること、原詩と音の付いた詩の違いや、同じところを詩と楽譜の両方で見ていく必要があることも学んでいった。
さらに、それらを踏まえて、朗読を通して膨らんだ思いを表現するために、具体的な発音法や発声法も講師の範唱を交えながら学んでいった。
「浜辺の歌」「夏の思い出」では、5人もしくは6人グループごとに詩を朗読し、表現の工夫の可能性を考えるというグループ活動が行われた。
受講生からは、「とおいそら」「そよそよと」「たそがれる」「におっている」など、情景や様子、香りを感じさせるような歌詞をどのように工夫して発音するか、声に出して確かめながらディスカッションが行われていた。

続いて前田拓郎氏からは、ピアニストの立場から楽曲構成や和声進行のほか、ダイナミクスや伴奏形が歌の旋律あるいは作品全体にもたらす音楽的効果などが、次のように解説された。

「浜辺の歌」では、伴奏形はこの作品の情景を表すように“波”を想起させる音型を使っていること、そしてその波も音型をわずかに変えることによって、波の大きさや表情の異なる幾つかの波を描いている。
強弱法では、一つのフレーズごとに音の高低に合わせて強弱記号が示されており、伴奏形もそれに寄り添う形で演奏され、流れを作ることもピアノ伴奏の大きな役割となる。
和声進行はシンプルながら、時折“増三和音”など音楽の緊張を高めるための特別な和声が使用されており、最も曲が盛り上がる部分で表現の幅を広げている。

「夏の思い出」では、伴奏形は8分音符を基本としているが、その場面ごとで全く異なる音型を作っていることから、旋律自体は同じであっても伴奏形の印象の違いによって、音楽の表情に彩りを与えている。
また、前半と後半では歌と伴奏の関わり方に変化が見られ、特に後半では歌の旋律をなぞることが多く、旋律との関係性が密になっている。
和声では、この作品でも“増三和音”の積極的な使用の他、曲の盛り上がりの部分(フェルマータの箇所)では、Ⅱ度上の属七の和音が使用され、音色や表情の変化に大きく結びついている。
中程に登場するピアニッシモでの「さいている」では、その直前に全パートでのパウゼが置かれ、次の音への時間的・空間的な余白を生むことで表現の可能性を広げている。

「花」では、伴奏の右手は16分音符を基本とし、間奏部分以外は大きな変化は見られないが、左手のバスの動きは様々なリズムが見られ、作品に躍動感を与えている。
一つの歌のフレーズが終わる毎に、次の旋律にきっかけを作るかのような固有の音型やリズムが見られることも特徴。
和声は非常に単純明快で、ⅠⅣⅤの主要三和音が基本的に使用されているが、一部ドッペルドミナント(Ⅴ度上のⅤ度)がさり気なく使用され、バスの半音進行とも相まって次の和声への着地を潤滑にしている。
クライマックスのフェルマータでは、その派生として減七の和音が使われているが、和声としては衝撃的な性格を持ちながらも、バスは半音進行を維持することによって、和音としてはインパクトを与えつつ違和感なくスムーズに次のⅠ度(第2転回形)に移行するという和声的な工夫がみられる。

3番の「おぼろづき」では、フレーズの途中でありながら急にP(ピアノ)の表示があり、歌詞の情景を最大限に表現するための工夫といえる。

いずれの作品も、歌の歌詞や旋律と伴奏形は大きな関わりを持っており、作曲者がどのような伴奏形や和声を選択しているかを考えることは、歌唱表現する上でも大変重要なことが強調された。
また、楽譜というのは、時代を越えて作曲家が我々に残してくれたメッセージでもあり、楽譜上の小さな記号や指示であっても、実はそこには音楽表現上の大きなヒントが隠れていることも多く、是非楽譜の隅々までよく観察し、表現の可能性を探っていただきたいとのメッセージも語られた。

最後に、グループディスカッションを通して、「本日の講義や実践提案を踏まえて、自分の授業にどのように生かしていきたいですか」という問いをもとに意見交換を行なった。
また、受講生からの講師への質問として、日本歌曲の発声法をどのくらい生徒たちに徹底させればよいのかが挙げられた。

 

実施スケジュール

時間 内容 研修形態(方法)
9:00~9:30 受付
9:30〜10:45 開講式・理論研修 参集
10:45~11:00 休憩・会場移動
11:00~12:00 テーマ別実践研修①(午前の部)
講演「言葉に向き合う」♪赤とんぼ
ウォーミングアップ
参集
12:00~13:00 昼食
13:00〜14:50 テーマ別実践研修②(午後の部)
鑑賞:花の街
歌唱実践/分析:浜辺の歌
歌唱実践/分析:夏の思い出
参集
14:50~15:00 休憩
15:00~16:00 テーマ別実践研修③(午後の部)
歌唱実践/分析:花
鑑賞:荒城の月
参集
16:00~16:20 リフレクション/グループディスカッション 個人作業・グループワーク
16:20~16:40 まとめと質疑応答
16:40~17:00 教科調査官による全体講評
17:00 アンケート提出後,研修終了