日程:第1回 令和2年12月3日(木)、第2回 令和3年2月22日(月)
講師:白尾 隆太郎(武蔵野美術大学)、大坪 圭輔(武蔵野美術大学)、アシスタント 2名
受講者数:第1回 32名、第2回 36名(定員 各20名)
意味を伝えるデザイン
デザイン基礎教育における下記の3つの課題を紹介しながら,他者に意味伝えるために造形を駆使し計画できる力,すなわちデザインの機能性と演出性について演習を交えながら説明した。これらの研修を踏まえて,中学校美術科及び高等学校芸術科美術Ⅰ,同Ⅱ,同Ⅲにおけるデザインの授業及び題材について検討を深めるようにした。
(1)デザインのための造形基礎
デザインのためのデッサン課題の次のステップとして,予め準備された手の写真をトレースすることで,形を便化(単一の意味として形を純化する)させていくことを解説し,さらに記号化した形を合わせながら重層的な構成を考え,点や線や面による表現の可能性について論じた。
(2)形で意味を伝える“ピクトグラム”
デザイン基礎教育において,ピクトグラムは形がどのような仕組みで人々に意味を伝えているのかを実感できるテーマとして捉え,ここでは人の基本動作である「歩く」「走る」「跳ぶ」というピクトグラムを,ユニットパターンを使って構成し,記号としての意味を形成させるようにした。参加者に「クイックピクト」と名付けられたオンライン上で可能な演習課題を提示し,提出された作品の講評を通して,「意味が他者に伝わるか」「3つの形に統一性はあるか」「独創性があるか」を評価の観点として、形の記号化について学習した。
(3)意味を伝え楽しさを演出するデザイン
デザインには,ピクトグラムのように形で意味を伝える機能的な側面と,その形をどのように表現するかという演出的な側面があることについて考察し,動物園のヴィジュアルデザインを考える課題(“動物園に行こう”)では,動物の形を十分に観察させ,その特徴を記号化(図案化)させ,「動物園は楽しい施設である」という要件をどのように色や形で演出するかを考えるようにした。動物の種類の選び方,形の特性や色の選択など,楽しい雰囲気を演出するための計画は,まさにデザインの学習の核をなす経験でもある。
これらの演習課題は専門教育としてのデザインの基礎教育であるが,これ踏まえて中学校及び高等学校における特に伝えることを考えたデザインの学習について,その課題や可能性について講義し,参加者とともに検討した。
大学等において教職課程の履修,教員免許の取得を希望する学生の内,中学校美術科及び高等学校芸術科美術の免許取得者は,その学修過程において絵画や彫刻を専門とする場合が多いことは,美術の教員養成課程を有するほとんどの大学の共通した認識である。今回の研修では,デザインの基礎に当たる視覚伝達を領域とするグラフィックデザインを「意味を伝えるデザイン」として分かりやすく提示したことにより,各指導項目の「主題の生成」における発想構想のベクトルの違いを明らかにすることができた。
すなわち,中学校美術科を取り上げるならば,「A表現,(1)」の「ア 感じ取ったことや考えたことなどを基に,絵や彫刻などに表現する活動」と「イ 伝える,使うなどの目的や機能を考え,デザインや工芸などに表現する活動」の二つのベクトルの違う発想構想で学習内容が構成されていることの重要性を,受講者に再確認させ,それぞれの指導の在り方を考察する手掛かりになったことは,アンケートからも読み取ることができる。自分の内側へと向かう「思考・判断・表現」と,自身から外部,身の回りそして社会へと向かう「思考・判断・表現」の二つから成る美術の学習こそ,現在期待されている創造性という資質・能力の育成へと繋がるものであることを受講者とも確認できたことは意味深い。
時間 | 内容 | 研修形態(方法) |
13:00〜13:10 | 研修前の操作確認・オリエンテーション | リアルタイム |
13:10~15:00 | 「デザイン基礎教育」の実際 | リアルタイム |
(1)デザインのための造形基礎 | リアルタイム | |
(2)形で意味を伝える“ピクトグラム” | リアルタイム | |
(3)意味を伝え楽しさを演出するデザイン | リアルタイム | |
15:00~15:10 | 休憩 | |
15:10~16:00 | 意味を伝えるデザインの授業を考える | リアルタイム・制作 |
デザインの授業作品交流,検討 | リアルタイム |