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令和4年度 全国研修会レポート [テーマ別実践研修]
中学校美術科・高等学校芸術科美術 [中高美2]:実施担当 武蔵野美術大学

研修概要

日程:令和4年12月15日(木)
講師:三澤一実(武蔵野美術大学)、春原史寛(武蔵野美術大学)
受講者数:85名(定員40名)

テーマ

ポップカルチャー作品の鑑賞活動における可能性

 

研修会の内容

今日、学校内(公式な教育・学び)の表現を扱う教科である美術が扱うもの(領域・対象)と、学校外(非公式な学び)で個人(子どもたち)が自由・自主的に触れる表現のズレが大きくなりすぎている。 個人としての子どもたちに、既存の美術以上に身近な表現は、アニメ・マンガ・ゲーム・映像(動画、写真)・ネット(SNS)等のポップカルチャーである。

ただし、アニメ・マンガ・ゲームなどは、それぞれの表現技術や鑑賞の文脈においての独自性が高く、また、子どもたちそれぞれに親しんでいるコンテンツやその知識の程度が大きく異なっており、あまりにも多様である。その点から、授業内での鑑賞にはなじみにくい。 そこで、あらゆるコンテンツを構成する最小要素でもあるイラストを鑑賞題材として取り上げた。

 

本講習では、藤ちょこ氏、めばち氏のイラストを対象に、作者のコメントも紹介した。コンテンツやその表現へのアクセスの間口を広げているのが、学校内外や家庭、生活において、表現の制作者・受容者の両方でかかわれるイラストである。イラストと美術は、表現や文化のポイントでつながっており、その距離は決して遠くない。

まずは情報リテラシー教育として美術教育に組み込みやすい鑑賞行為によって、イラストをはじめとしたポップカルチャーと美術を接続し、あるいはポップカルチャーと美術の境界をあいまいかつ流動的にし、日常にあるイラストを表現として明確に再認識した。

また、イラストを表現の一要素として介して、人々とコンテンツをつなぐ、ポップカルチャーのグラフィック・デザインにも注目し、濱祐斗氏のデザインを題材に、その機能や、鑑賞の可能性も探った。これは、美術以上に社会との接点を重視するポップカルチャーにおいて、世界観やキャラクターの見え方と魅せ方をどのようにデザインするのかという、コンテンツと消費者・社会をつなぐ総合性のあるデザインであり、デザイン学習への接続も期待される。

 

ポップカルチャーの鑑賞においては、子どもたちが自らの生活環境において、身近に愛着をもつイラストやポップカルチャーの表現を選び取って、自発的に鑑賞を行うことのできる点が注目される。また、教員にはポップカルチャーを身近に感じている者もいるが、それらを美術教育に活用する視点・方法について詳しいものや、その意義を明確に把握している者は少ないと考えられ、その改善のために本講習が資する。

以上を踏まえて、本講習では次の可能性を追求することを目指した。➀イラストの造形的鑑賞の可能性 ②ポップカルチャーの娯楽としての「刺激」の魅力と危険性の学び ③ポップカルチャーという外部・外側から、美術の本質を知り考える学び ④ある世界を伝えるためにあらゆる視覚的要素をデザインすることの学び ⑤自分に「近い」身近なポップカルチャーの表現と、世界・人間の全体や「遠く」を見ることのできる美術の表現の関係性(つながり、共通点、違い、非連続性)を知る学び

 

これらを伝える春原の講義の上で、受講者には、4名のグループで議論の上、今回鑑賞したイラストのうちの3点を活用した授業題材を提案してもらい、ウェブ・ツールである「Padlet」を活用して、その成果の全体での共有を実施した。

さらにここまでの内容を踏まえて、三澤が「コンテンツベースからコンピテンシーベースへ」という観点から、感性や想像力を発揮して、対象や事象を造形的な視点で捉え、自分としての意味や価値をつくりだすことや、美術で扱う知識は、個人の経験から生成されるものであり、私たちが一般的に使う知識とは異なることを論じて、知っていることを子どもに教える授業から、子どもと共に造形的な視点を発見していく(意味や価値を創り出していく)授業への、資質・能力を基盤とした授業転換の意義を解説した。

美術で扱う知識は、個人の経験から生成されるものであり、私たちが一般的に使う知識とは異なることを論じて、知っていることを子どもに教える授業から、子どもと共に造形的な視点を発見していく(意味や価値を創り出していく)授業への、資質・能力を基盤とした授業転換の意義を解説した。

 

実施スケジュール

時間 内容 研修形態(方法)
9:30〜11:45 開講式、全体研修、理論研修(教科別:文化庁による進行) オンライン
13:00〜13:05 はじめに・ガイダンス(三澤・春原) オンライン
13:05〜13:40 【講義】ポップカルチャー・コンテンツを鑑賞する意義/
イラストの位置づけとイラスト鑑賞の観点(春原)
オンライン
13:40~14:10 【講義・鑑賞】イラスト作品の鑑賞(制作者による解説音声/春原) オンライン
14:10~14:25 【講義・鑑賞】発展的展開の可能性 ポップカルチャー・コンテンツの
グラフィック・デザインの鑑賞(制作者への取材/春原)
オンライン
14:25~14:35 質疑応答 オンライン
14:35~14:45 休憩 オンライン
14:45~15:35 【演習(グループワーク)】受講者によるグループワーク:
イラストを活用した鑑賞題材を発案する
オンライン
15:35~15:55 【講義】学習指導要領に基づくレクチャー内容の整理(三澤) オンライン
15:55~16:00 まとめ(三澤・春原) オンライン
16:20~16:40 全体講評(教科別:文化庁による進行) オンライン