日程:令和5年2月13日(月)
講師:合津正之助(常葉大学)、長橋秀樹(常葉大学)
受講者数:3名(定員20名)
絵に表現する活動を通して、言語活動の充実を図り、
対象を見つめ感じ取った形の特徴や美しさを捉える授業づくりについて
中学生(受講者が中学校教諭のため中学校生徒に限定)対象の研修を2部構成として、より多くの学びの経験に接する機会とした。第1部は、中学生の発達段階を踏まえ、対象から感じ取ったことや考えたことを話し合い、それを表現に生かすことで、一人一人の感じ方や捉え方の違いや表現の多様性に気付き、個性を認め合いながら思考力、判断力、表現力等の資質・能力の育成につなげる授業の提案を行った。言語活動の重視の観点から、言葉からイメージしたことから発想し、思ったこと、考えたこと、表したいことを見付ける活動を「絵などに表現する」活動へ展開する学習活動(授業)について、教材研究のきっかけとして提案した。
第2部は、学校現場でICT端末が導入され、美術科の授業でも活用されてきている。美術科(芸術科美術、工芸を含む)においては、ICTを活用する学習活動と、実際に物を見たり、実際に対象に触れたりするなどして感覚で直接感じ取らせる学習活動とを、題材のねらいに応じて吟味し、ICT端末を効果的に用いて指導を行うことが重要であり、このプログラムの大前提とする。本プログラムでは、「見ること」を大切にし、対象を見つめ感じ取った形の特徴や美しさを捉えることについて、人体クロッキーの実践を通して体験的に学ぶ試みを行った。
●第1部では中学生(2年生)を対象とした、言葉の情報から表現に展開することで、個(それぞれの違い)を知る学習活動(題材)を提案した。一人一人の感じ方や捉え方の違いに学習者(生徒)が気付くことで、個性を認め合いながら豊かな想像力の育成につながる学習活動について、具体的な学習活動(題材および授業)を提案し受講者各自が考察した。
まず言語活動の重視の観点から、言葉の情報から発想し「絵などに表現する」活動へと構想する学習活動の展開について、学習指導要領における考えの位置付けについて説明を行った。また、今後の教育の方向性であるOECD「The OECD Learning Compass 2030(学びの羅針盤2030)」との係わりについて、美術科の果たす役割と生徒が身に付けるべきコンピテンシーとの係わりについて解説を行った。
次に提案する互いのよさや個性などを認め尊重し合う授業づくりにおける、個性を認め合う授業の考えとその指導方法等について、授業事例と指導計画により具体的に解説を行った。提案する学習活動は、次の通りである。教材として発達段階に配慮した任意に選んだ絵画作品(今回は、シャガール作『エッフェル塔の新郎新婦』を扱った)について、客観的に分析し、視覚情報のみの文章(言葉の情報)を提示する。次にその情報を基に生徒各自が想像した絵を描き、それぞれの違いを理解し認め合う鑑賞の学習活動を行い、価値観の多様性と個性を尊重する学習活動へと展開する。これらの内容を具体的にまとめた資料により提示した。
生徒の発達の段階に配慮し、提案事項(プログラム内容)を通して、それらを理解し実践する目的を持ち、育成するコンピテンシーを確認し、提案する学習活動(授業および題材)の目標について考えた。言葉の情報から考えられるものを想像したり、作品について説明し合ったりして、言語活動の充実を図ることへつなげるとともに、一人一人の感じ方や捉え方の違いや表現の多様性に気付き、個性を認め合いながら思考力、判断力、表現力等の資質・能力の育成につなげる試みを行った。
生徒一人一人の表現や鑑賞の能力を豊かに育成していくためには、発想や構想をする場面、創造的な技能を働かせる場面、鑑賞の場面のそれぞれにおいて、形や色彩、材料などの性質や感情などに意識を向けて考えさせたり、対象のイメージを捉えさせたりすることが重要であるため、〔共通事項〕へのアプローチも行った。
また、生徒の発達に応じた美術作品を鑑賞し、作品のよさや特徴、表現の意図や工夫などについて言葉で表し、話し合う鑑賞の学習活動から、具体的な物事から考えたり、思ったり、想像したりするための言語表現を身に付けることや価値観の多様性と個性を尊重することを指導できる資質・能力について考えを深めた。
さらに、他教科との連携(合科教育)として提案する学習活動を捉え、国語科における詩歌の学習活動との連携について、発展学習としての提案も行った。
●第2部では、「対象の構造感を把握する手立てとしてのドローイングの意義」について実技を通したプログラムを実践した。技能教科としての美術科の観点から、指導者として経験すべき技術と、育成すべき資質・能力における教育的な目標からのアプローチとして「ドローイング(描くこと)」における「クロッキー」について、実技実践を中心に行った。
まず研修の冒頭、中学校学習指導要領の目標についての復習をすることで午前中の研修と実践をつなぐことで、造形的な見方、考え方と対象の構造感を捉えることの類似性について解説をし、受講参加者の理解を深めた。
その後、対象となる人物を深く見つめ感じ取ったことや考えたことを、短時間に線描で表現する演習(クロッキー)を画面全体にモデルを入れる条件での専門性の高い実践として行った。その際、表現と鑑賞の活動の実践を通して、作品から感じ取ったり考えたりしたことについて話し合いを行った。このプログラムにより、表現の意図や工夫を発表しあったりお互いのよさや個性などを尊重したりするなど言語活動の充実を図ることへとつながった。またこの専門性の高い講評および指導を実施したことで、専門教科の指導者としての指導力について確認した。
最後に中学校学習指導要領の内容構成に触れて、初等教育の「造形あそびをする活動」との概念的つながりを解説し、図画工作科と美術科の接続の問題についても触れることができた。
対象を見つめ感じ取った形や色彩の特徴や美しさを捉える演習から、指導方法など授業づくりについて考えることで、多様な表現方法に気付き、材料や用具の特性を生かし、意図に応じて自分の表現方法を追求して創造的に表すことに対する指導と五感等の体全体を通して、自分の感覚を大切にした表現の工夫について考えることができた。また形や色彩、材料などの性質や、それらがもたらす感情を理解したり、対象のイメージをとらえたりするなどの資質や能力を育成し、表現や鑑賞の能力を高めることをねらいとし、美術学習の基盤となり、表現及び鑑賞の活動すべてにおいて共通に指導する〔共通事項〕について実技を通じて考えられた。
時間 | 内容 | 研修形態(方法) |
9:30〜11:45 | 開講式、全体研修、理論研修 (教科別:文化庁による進行) |
オンライン |
13:00~13:15 | 1部:個性を認め合いながら豊かな想像力の 育成につながる学習活動について |
参集 |
14:00~14:05 | 休憩および準備 | 参集 |
14:05~14:15 | 学習指導要領(科目の目標について) | 参集 |
14:15~14:30 | ドローイングの概念 | 参集 |
14:30~15:50 | クロッキー実践 | 参集 |
15:50~16:00 | 学習指導要領(内容構成について) | 参集 |
16:20~16:40 | 全体講評(教科別:文化庁による進行) | オンライン |