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令和3年度 全国オンライン研修会レポート [テーマ別実践研修]
中学校美術科・高等学校芸術科工芸:実施担当 東京藝術大学

 

 

 

 

 

 

 

 

 

研修概要

日程:第1回  令和3年12月9日(木)、第2回  令和4年2月17日(木)
講師:渡邉 五大(美術教育研究室准教授)、橋本 圭也(染織研究室准教授)
受講者数:第1回  12名、第2回  14名(定員 各40名)

テーマ

植物繊維から糸を縒り網を編む
-縄文時代を想起させる素材と方法-

 

研修会の内容

本講座は「植物繊維から糸を縒り網を編む 〜縄文時代を想起させる素材と方法〜」をテーマに、苧麻(からむし,チョマ)の特質や縄文文化の美意識を感じ取り、目的や機能について考え、工芸表現する活動を通して、見方や感じ方を深めるとともに技法を学ぶことを目標として実施した。

 

パワーポイントを使用した課題説明の様子

 

始めに講師紹介を行い、予め郵送された教材を確認後、課題の流れと内容説明を行なった。パワーポイント共有にて、
縄文文化や漁網の使用された生活、教材となる苧麻、題材を通して得られる学習内容を説明し、縄文文化の美意識や
素材と手わざによる造形美について受講者の理解を深めた。次に、苧麻の繊維としての分類や、植物から糸になる
加工方法を紹介し、「縒りについて」と「編みについて」の工程の意味や構造を説明した。最後に教材である「編み用
ジグ(治具)」について、教材開発の経緯を説明した。
縄文文化や苧麻の素材、その技法の構造について詳しく知ることで、単に道具を使用した網作りのような作業と捉える
のではなく、苧麻という素材から縄文文化の美意識や糸縒りと編み技法の目的・機能に対する見方や感じ方を持った
上で、実制作に移行した。
まず糸縒り作業では、工程説明を動画と実演で行なった。動画を止めながら説明し、受講者も一緒に制作していった。
受講者は糸縒りのポイントや注意する点を聞きながら制作し、ある程度の工程を把握後、講師側が順に受講者に対して
不明点などを質問する時間を設け、短時間での糸縒り技法の習得を目指した。制作する糸の目安の本数を伝え、休憩の
時間となった。その間に次の編み作業に向けて糸縒り作業を行う受講者もいた。

 

糸縒り作業の実演

 

次の編み作業では、技法の把握を糸縒り作業と同様の方法で行なった。糸縒り作業に比べ、編みの工程は少々複雑な
作業であることから、丁寧に時間をかけて一人一人の受講者の質問に回答していった。
作業自体の質問以外に、苧麻や「編み」から関連したそれぞれの学校の授業展開の話や、実際にこの講座を授業で
取り入れる際の質問などもいただき、各校の意見交換として有意義な機会となった。

 


受講者の質問に
回答する様子

糸縒り作業の実演

 

作業の終盤に、振り返りとして再度一人一人の受講者に完成の網を見せていただき、感想を伺った。その後、完成の
網を各々カメラの前に掲げていただき、記念撮影を行なった。最後に、今回題材とした縄文漁網のプロジェクトに
関する説明と授業紹介を行い、講座の終了とした。

 

 

■受講者からの感想(アンケートより抜粋)

◯新たな学びや気付きがあったこと等について

・縄文の文化や生活を現代の環境問題やSDGsとの関わりを持たせながら、現在行っている工芸の授業に生かしていきたいと思った。(京都府・高等学校・教諭)

・考古学では実際に実物や証拠となるものがないといけないが、美術ならば創作することができる。これにより、美術の伝統文化や工芸品への活動への有益さを学べた。(千葉県・中学校・講師)

・漁網をつくる過程で、触覚的、視覚的、嗅覚的、聴覚的、五感で物事をとらえつつ、人が造形してきたことの自然さやおもしろさなどを創造しながら進めることができました。また、原始的(?)な体験を通して、ダイレクトに生活の中人の知恵や工夫が見えてくる、もしくは新しいモノを生み出していく力を実感できると思いました。(徳島県・中学校・教諭)

・以前から、教科横断的な授業を展開したいと考えていたが、何を美術の課題として扱えばいいのか迷っていたが、工芸的な側面から見ると多様な課題設定ができそうな気がした。また、ICT化が進む社会の中で、素材に触れて、感触を確かめながら、とても原始的な作業をしながら、過去の生活を感じ取る、という素敵な体験ができた。生徒にも、今生活の中で使われているものの成り立ちや変遷に関心を持たせ、体験的に学ぶ機会をつくってあげたいと感じた。(千葉県・中学校・教諭)

・郷土の素材を使うことの意味や、教科横断的な指導について学ぶことができた。(東京都・中学校・教諭)

・SDGSを意識したプロジェクト開発そのものが、大変刺激的に感じた。このプロジェクトを通して、子どもたちは、美術的な視点だけではなく、さまざまな分野の知識を得て、経験が広がると思う。今の時代に必要な美術の授業を考える視点を学んだ。(熊本県・中学校・教諭)

・縄文文化から発想を膨らませ、天然素材を加工して道具を作っていくプリミティブな活動から、実感を伴って、人と自然の共生社会を考えることができる。(山梨県・高等学校・講師)

・普通はすでにある作られた素材をもとに授業を進めていくが、天然繊維を裂いたり縒ったりすることで小さな一歩となることについて、感動した。すべて手作りであり時間がかかるが、編むことでまた大きくなっていく。小さなパーツであるが、多くの人の手を介して世の中に役立つ物に育っていく過程の一端に参加できたことをうれしく思う。(東京都・高等学校・教諭)

・教科横断的な考え方によって、深みが増すことを改めて知りました。また、手を動かすという作業が手先の運動にもなる上、夢中になって集中力も鍛えられると思いました。完成する達成感とみんなで作ったものが一つになるという達成感とでいくつもの成功体験につながると思いました。(埼玉県・小学校・教諭)

 

◯テーマ別研修の講座を受講して、もっとも印象に残った内容について

・縄文の生活は資源や自然を使い切らない生活技術を工夫し続けていること。便利だけでなく、あえて触覚的に抵抗感がある素材を扱うことで生徒の感性を刺激できること。(京都府・高等学校・教諭)

・チョマ(植物)を使うことで生徒にとって扱いづらくとも文化を学び、実物・本物を触る機会が増えることの大切さ。(千葉県・中学校・講師)

・縄文時代の漁網制作過程の中で、なぜこの結び方にしたのだろうと思ったことです。(徳島県・中学校・教諭)

・素材である苧麻の匂いがとても懐かしくいい匂いだった。自分が子どもの頃に体験したことを、今の子どもたちは体験する機会がないのだろうと思い、是非体験してほしいと思った。(千葉県・中学校・教諭)

・植物の繊維は出土しにくいからこそ、当時の生活をイメージすることの楽しさや、社会と美術の関わりについて生徒が考えることができる授業作りのイメージができた。(東京都・中学校・教諭)

・苧麻から繊維をとり、網を編むという活動そのものが、大変新鮮で、やってみて楽しく、没入した。この繊維から広がる(例えば着物)分野にも興味がわいた。(熊本県・中学校・教諭)

・自然との共生を実現させていた縄文時代は、日本の生活文化の起源といえる。謎だらけの縄文時代から自分なりの新しい問いを導くことができる。若者の関心事である気候危機を学習の中で考える際に、縄文はよい題材になると思った。(山梨県・高等学校・講師)

・科目「工芸」では、素材をどのように加工して物を作っていくかによって、授業内容に様々なバリエーションを作ることができます。今回は、糸を縒り編むことで漁網の一部を作ることができましたが、木の皮、和紙、竹などを編んだり、重ねたり、編み方で様々な模様を作ったりと、学校で導入できそうなヒント、アイディアをいただきました。授業で作られるものが、生徒一人で完結せず、多くの人の目に触れ、道具として作っていくことを、指導したいと思いました。(東京都・高等学校・教諭)

・苧麻をつくるのにとても手がかかる。しかし、自然のもので編みをつくるため環境破壊などにはならず、環境にもやさしいという点(埼玉県・小学校・教諭)

 

 

実施スケジュール

時間 内容 研修形態(方法)
13:00〜13:12 講師紹介、道具の準備と本日の流れの説明 リアルタイム
13:12〜13:22 課題説明(美術・工芸を通した縄文文化から得られる学びについて) パワーポイント共有
13:22〜14:15 技法材料説明(素材/植物繊維/縒り技法について)

糸縒り工程説明(動画視聴)

糸縒り実践

動画共有

パワーポイント共有リアルタイム

14:15〜14:25 休憩 リアルタイム
14:25〜14:40 編み工程説明(動画視聴)

編みの実践

動画共有

リアルタイム

14:40〜15:40 編みの実践 リアルタイム
15:40〜15:50 振り返り(作品鑑賞、記念撮影)
15:50〜16:00 まとめ

プロジェクトについて説明

リアルタイム

パワーポイント共有

16:00〜16:10 休憩
16:10〜16:30 全体講評