日程:令和3年12月9日(木)
講師:岩井 智宏(桐蔭学園小学校)、市川 恵(東京藝術大学)
受講者数:60名(定員 40名)
学びが深まる「常時活動」の工夫:歌唱、器楽、音楽づくり、鑑賞の学習へのつながり
本研修は、「常時活動」を生かした授業づくりの可能性や課題を探究するとともに、講師による具体的な実践提案を体験することをとおし、指導改善、学習改善に結びつく視点や方法を学ぶことを目的として実施された。
受講生との意見交換も交えながら、講師による実践動画を視聴したり、オンライン上で常時活動を実際に体験したりすることによって、受講生と共に「常時活動」を生かした授業デザインに関して考えを深めていった。主な内容は以下のとおりである。
(1)音楽授業における「常時活動」の位置づけ
音楽授業における「常時活動」の在り方として、「心の解放」と「グランドワーク」としての活動が重要であることを示した。「グランドワーク」とは、子どもたちが自らの力で主体的に活動に取り組むための土壌づくりを意味する。「常時活動」を本時における子どもたちの主体的、対話的で深い学びを実現するための「下準備」として位置付け、子どもたち一人ひとりが心を解放し音楽表現に安心して向かうことができる空間を構築することが大切であることを導入として述べた。
(2)世界の教育動向から見た音楽教科の可能性
世界の教育動向、社会の変化を踏まえ、「工業化社会において重視された標準化とコンプライアンス」、「累化から再構造化」の視点から、教育の在り方がどのように変わろうとしているのかについて、レクチャーを行った。そして、授業での具体的な子どもの姿を挙げ、社会的構成主義の立場に立った子どもを主体とした見方や教師の支援的立場から、音楽科では子どもの育ちをどのように見取るかについて、受講生と意見交換をしながら考えていった。さらに,音楽科における教科としての可能性について、《やまびこごっこ》や《幸せなら手をたたこう》を教材とした授業での具体的な場面を例示しながら、音楽授業は発想力の芽生えの場であると同時に、活動をとおして自分の見方・考え方を更新していく「再構造の連続」の場であることを述べた。
(3)常時活動の魅力とデザイン
実践動画を視聴したり、受講生が子ども側になってZoom上で常時活動を体験したりすることによって、常時活動の具体的な展開方法を学んだ。常時活動をデザインする視点としては、「これまでの教材を生かす」、「題材観を見つめる」、「本時でのねらいを焦点化」の3つを提示した。
具体的には、《幸せなら手をたたこう》を用いた常時活動を例に挙げ、「呼びかけとこたえ」、「音色」、「拍」というさまざまな切り口から活動のレパートリーを紹介し、受講生も活動に参加しながら、題材に沿った常時活動の在り方や本活動になめらかに接続する展開方法を考えていった。そして,同じ教材であっても、その時の題材に応じてさまざまな角度から、常時活動のアイディアが広がることを学んでいった。
実践動画の視聴では、1年生を対象とした《森のくまさん》を用いた常時活動から《やまびこごっこ》を教材とした本活動へと接続していく授業を紹介した。動画を要所要所で停止しながら、教師の働きかけの補足や子どもの動きや発話の解釈を共有した。《森のくまさん》では、拍を掴まえながら歩く活動を行なったが、身体をとおして個々の子どもが拍をどのように感じているのかを教師は見取り、それに応じて具体的な助言ができるといった、個々の子どもへの言葉がけや手立て、ねらいに応じた評価観について述べた。また,受講生も《森のくまさん》を用いた常時活動をZoom上で体験し、「ともだちとなかよくなろう」、「拍を感じ取ろう」など題材に応じて、また、本時のねらいに即してどのように常時活動をデザインするか、受講生自身も考え、チャット機能を通じてアイディアを共有した。
その他、《けむしが三匹》の歌を聴いて、聴き取った情報をイメージマップに描出し、自らの聴き取ったことや思考を可視化する方法を体験的に学んだ。具体的には,以下のような展開であった。①歌を聴いて、聴き取ったこと(どんな単語があるか等)をイメージマップに描出する。
歌を聴いて、「いくつの場面があるのか」を考え、共有する。
②聴き取った歌詞を書き出す。
③3つの場面に共通する点を考える。
聴く回数が増えるにつれて、聴き取れる情報が増えていくことを可視的に確認したり、「歌詞」、「フレーズのまとまり」、「リズム」、「音の高さ」など、さまざまな聴き方をしながら曲全体を掴もうとしている自分に気付いたりしながら、繰り返して聴くことの価値を再認識した。また、音楽授業におけるシンキング・ツールの効果的な用い方についても意見交換を行なった。
最後に、子どもの成長を願って、「音楽を教える」から「音楽で育てる」こと、子どもの変容や形成的な思考のプロセスを細やかに捉えていくことの重要性について述べた。
(4)質疑応答
最後に、次の5点の質疑応答が行われた。
・特別支援学級に在籍する子どもの評価はどのように行えばよいか。
・「曲想の変化を感じ取ろう」という題材においてどのような常時活動が考えらえるか。
・常時活動と本時の時間配分、教材研究の仕方、本時の学習内容との接続をどのように考えて進めているか。
・常時活動から本日の活動が子どものなかでつながっていない場合にはどのような働きかけをするか。
■受講者からの感想(アンケートより抜粋)
・「常時活動」を通して、子どもの心を解放すること、安心して音楽表現を楽しめる場を創り上げることが、主体的,対話的で深い学びの授業をするために非常に有効であるということを、頭だけではなく、心でも十分に実感することができました。 ・題材観をもち、本時でのねらいが題材のどこにあるのかを見極めること、また、本活動において何をねらいとするかに応じて、常時活動を取り入れていくことなど、多くを学ぶことができました。 ・学年に合わせた内容も具体的にご提示いただき、大変勉強になりました。 ・岩井先生が、子どもが来てくれるから授業ができる。そしてプラスの言葉掛けで児童の反応が変わることを知れて、自分の授業の言葉遣いや言葉掛けの内容が生徒にとってプラスであったかを考えさせられました。 |
時間 | 内容 | 研修形態(方法) |
13:00〜13:05 | オリエンテーション(講師自己紹介,本日のタイムスケジュール等)Web会議システム等の操作確認 | リアルタイム
資料提示 |
13:05〜13:15 | ワークショップ交えたレクチャー①
・音楽授業における「常時活動」の位置づけ ・音楽授業における「心の解放」の大切さ |
リアルタイム
資料提示 |
13:15〜14:20 | ワークショップ交えたレクチャー②
1.世界の教育動向 2.音楽教科の可能性 |
リアルタイムでの解説
チャットを用いた意見交換 資料提示 |
14:20〜14:35 | 休憩 | |
14:35〜15:30 | 3.常時活動の魅力
4.常時活動を作るコツ 5.子どもの成長を願って |
動画視聴とリアルタイムでの解説 |
15:40〜16:05 | 質疑応答
・日常の音楽づくりと本研修の内容について |
リアルタイム |
16:05〜16:10 | 休憩,ルーム移動 | |
16:10〜16:30 | 全体講評 | リアルタイム |