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令和3年度 全国オンライン研修会レポート [テーマ別実践研修]
小学校音楽:実施担当 東京藝術大学・講座2

研修概要

日程:令和4年2月17日(木)
講師:小梨 貴弘(埼玉県戸田市立戸田東小学校)、市川 恵(東京藝術大学)
受講者数:75名(定員 50名)

テーマ

音楽科授業におけるICTの活用:鑑賞の学習を中心として

 

研修会の内容

本研修では、ICTを活用した鑑賞や音楽づくりの学習の可能性や課題を探究するとともに、講師による具体的な実践提案を体験することを通し、学習改善、指導改善に結びつく視点や方法を学ぶことを目的として実施された。
本研修は、次の四部構成で展開され、受講生自身も実際にアプリを体験する実習を含めながら、音楽科におけるICTの活用方法に関して理解を深めた。
(1)「これからの音楽科教育とICT」に関するレクチャー
(2)「タブレット端末を活用した音楽科授業(鑑賞編)」に関するレクチャーと実習
(3)「タブレット端末を活用した音楽科授業(音楽づくり)」に関するレクチャーと実習
(4)質疑応答

 

(1)「これからの音楽科教育とICT」に関するレクチャー

まず、DX(Digital Transformation)が加速する現代社会において教育現場に何が求められ、学校教育がどのように変わろうとしているかについてレクチャーを行なった。そして、学校教育におけるICTの役割として、社会の変化やDXを見据えた次世代のアイテムであること、個別最適な学びの促進と協働的な学びの充実、あらゆる状況下における「学びの場」の確保、教師の業務のさらなる効率化とスリム化の4点を挙げ、ICTが子どもたちの新しい学びを支える重要な学習環境のひとつであることを確認した。それらを踏まえ、音楽授業では、学校DXに伴う「音楽の学び方・教え方」をアップデートすること、有事にあっても「音楽の学び」を止めない学習環境を構築すること、教科の持続性維持のための実践開発を行なうこと、視聴覚機器の世代交代に対応すること、が不可欠であることを述べた。

 

(2)「タブレット端末を活用した音楽科授業(鑑賞編)」に関するレクチャーと実習

ここでは、タブレット端末を活用した実践を紹介した後、受講生も子ども側の立場で実際にアプリを体験し、タブレット端末が開く鑑賞授業の可能性について考えを深めていった。具体的には、6年生を対象とした「色々な演奏から自分の心に響く演奏を見つけよう」というテーマのもと《つばさをください》の比較鑑賞を行なった。You Tube上に予めアップロードされた6つの演奏を各自が聴取した後、自分の心に響いた演奏を選び、感想や気付いたことをGoogleフォームを使って入力した。その結果は、その場で全体に共有され、意見交換がなされた。ここから、タブレット端末の活用には個別最適な学びを実現し、対話を促進することを確認した。また、演奏のどのようなところが心に響いたのか「音楽の素」と結び付けて考える活動をとおして、「音楽的な見方・考え方」を働かせた鑑賞授業の在り方を考えていった。その他、友達とイメージを話し合う「だよね~タイム」や、自分が選んだ曲の良さを仲間にアピールする「コマーシャルタイム」など、他者と感じたことを共有する方法や言語活動を充実させるための工夫も紹介した。

 

続いて、「シンキングツール」有効活用のポイントとして、①どのように考えをまとめるのか方法や条件をきちんと示す、②個や集団の思考の先にある次の学びを意識する、③「一覧表示機能」を活用し、思考の交流を活性化させる、④音楽科らしい「ツールの特殊な用い方」を検討する、の4点を挙げた。ここでは、ジャムボードを使った実習を行い、受講者は「音楽の特徴をたよりに、どのような景色なのかを考えながら聴く」という活動に取り組んだ。そして、その標題音楽のタイトルを選択肢から選び、その理由をジャムボードに書き込んでいった。ジャムボードをとおして他者の考えが可視化されることにより、他者の意見も参照しながら、自分の考えを深めていくというプロセスを体験した。その他、5年生を対象とした「音図形から音の重なり方を探り、ひびきを味わおう」というテーマのもと《アイネクライネナハトムジーク》を教材とした鑑賞の実践場面の紹介、アメリカの作曲家、ステファン・マリノウスキー氏の公式チャンネル「smalin」の活用方法の紹介、オンライン学習と著作権に関するレクチャーを行なった。

 

(3)「タブレット端末を活用した音楽科授業(音楽づくり編)」に関するレクチャーと実習

音楽創作ツールとして「Chrome Music Lab」に含まれる「Song Maker」を取り上げ、ツールの機能、ツールの長所・短所、有効活用のポイントを整理した。「Song Maker」は、音楽的知識が乏しくても作曲ができる、音の構成を視覚的に俯瞰できる、作品をWeb上に保存できる、端末の種類を問わず無料というメリットがある反面、条件を提示しなければ絵画的な作品となる可能性がある、「楽譜」との関連性が乏しい等のデメリットもあることを確認した。そのため、「Song Maker」を有効活用するためには、①使用する目的や意図を明確にすること、②学習内容に即した「ひな形」を用意すること、③学習のための「条件設定」を明確に行なう、④作品を保存・共有し、良さを話し合う時間を設ける、の4点が重要であることをポイントとして挙げた。
最後に、音楽科でICT機器を活用する際の心得として、「生」の体験を大切にすること、失敗を恐れずチャレンジすること、トラブルを想定した即応力を身に付けること、著作権・個人情報、セキュリティに注意すること、スマートかつシンプルな環境づくりを心掛けることの5点を述べて講義を終えた。

 

(4)質疑応答

鑑賞授業の評価方法、歌唱授業でのICT機器の活用方法、無拍節の音楽づくりに対応しているアプリがあるかどうかについて、質疑応答が行われた。

 

■受講者からの感想(アンケートより抜粋)

・ICTの活用を学びにつなげていくためのアイディアをたくさんいただきました。ICTで鑑賞でも音楽づくりでも個別最適化な学習が可能になったのだなと感じ、本日教えていただいたアイディアを私自身もはやく実践してみたいと思っています。

・ICTを活用し、一人一人の感じ方を共有することで、感じ方の多様性に気付く場になる。

・chrome musicを使った音楽づくりを行いましたが、絵画的な遊びのような音楽づくりになってしまい、学習を深めることに結びつかなかったので、今回教えていただいたように条件を明確に設定したり、ひな形を用意したりすることで、十分に教材として成立することがわかってうれしかったです。

・音楽に対する感性を働かせ、音楽を、音楽を形づくっている要素とその働きの視点でとらえて自分のイメージや感情と関連付けるという、いわゆる「音楽的な見方・考え方を働かせ」ということの具体を学ぶことができた。

・ICTは手段であって目的とならないように、ねらいをしっかりと持って授業を組み立てていかなければいけないと思いました。

 

 

実施スケジュール

時間 内容 研修形態(方法)
13:00〜13:10 研修前の操作確認・オリエンテーション リアルタイム
13:10〜13:40 「これからの音楽科教育とICT」に関するレクチャー リアルタイム
13:40〜14:25 「タブレット端末を活用した音楽科授業(鑑賞編)」に関するレクチャーと実習 リアルタイム
14:25〜14:40 休憩
14:40〜15:30 「タブレット端末を活用した音楽科授業(音楽づくり)」に関するレクチャーと実習 リアルタイム
15:30〜16:00 質疑応答 リアルタイム
16:00〜16:10 休憩
16:10〜16:30 全体講評 リアルタイム