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令和3年度 全国オンライン研修会レポート [テーマ別実践研修]
小学校図画工作科:実施担当 武蔵野美術大学

研修概要

日程:第1回  令和3年12月9日(木)、第2回  令和4年2月17日(木)
講師:高浜 利也(武蔵野美術大学版画研究室教授)、所 彰宏(同 版画研究室助教)、大坪 圭輔(同 教職課程研究室教授)
アシスタント:古賀 慧道(同 版画研究室教務補助)、田中 千里(同 油絵学科版画専攻3年)
受講者数:第1回  37名、第2回  35名(定員 各30名)

テーマ

解き放たれた版画 -表現としてのアートブック-
子どもたちの豊かな思考力、判断力、表現力等の育成 を目指して

 

研修会の内容

本分科会では、「解き放たれた版画-表現としてのアートブック- 子どもたちの豊かな思考力、判断力、表現力を目指して」をテーマとして、第1回、第2回の研修を実施した。講師の大坪は、本研修会の配信センターから研修オンラインに入り、高浜教授、所助教、スタッフ2名は武蔵野美術大学版画研究室からオンラインに入るとともに、同研究室からの実況中継を行う形で研修を進めた。

 

「①講義」では、高浜教授が印刷技術としての版画の歴史を、提示資料を基に講義を行った。特に版画と印刷技術の関係や、アートブック等の新たな表現の定義など、従来の四版種としての版画の理解とは違った視点の重要性が強調された。

「②講義」では、同じく高浜教授が、印刷技術が版画として表現を広げていく状況を多くの図版、作品の提示とともに解説した。特に、我が国の学校において印刷機として普及している「リソグラフ」による版画やアートブックとしての表現の可能性と、「リソグラフ」による表現がすでにヨーロッパなど海外ではアーティストの表現方法として広がっていることが紹介され、日常的に「リソグラフ」使用している受講者の先生方には、新鮮な驚きを与えていた。

「③講義」では、版画研究室に集められたアートブックの作品を、鑑賞者が実際に触れる代わりに、高浜教授が手に取り各ページを捲り、その場面を実況中継する形で作品の鑑賞を行った。オンラインでの作品鑑賞には限界があるが、解説者が手で触れページを捲る映像を配信することで、多少なりとも臨場感のある鑑賞の機会となった。

「④演習」は、事前に受講者から提出してもらった「食に関するイメージ資料」を所助教が蛇腹式の製本を用いてアートブックにした作品を紹介するとともに、その制作方法を実演し、実況中継した。単一のイメージが前後に繋がることによって新たなイメージが生まれるところに、子どもたちの「造形的な見方・考え方」を育む要素を見出すことができる。また、スタッフの田中千里(武蔵野美術大学油絵学科版画専攻3年)が、実際に「リソグラフ」をもちいて、自身の作品を制作する実演を行い、同様に実況中継を行った。さらに、小学校図画工作科の授業題材としての展開の可能性を考え、A3一枚から作るアートブックの制作方法などを実演紹介した。

「⑤講義・討論」では、これまでの講義や演習から、従来の版画表現をグラフィックアーツとして捉え直すことの意義が高浜教授から解説があり、受講者からの質問や意見を受けながら、教材としての可能性を考えた。受講者からは「リソグラフ」そのものについての質問とともに、表現形式もしくは方法としての印刷という視点の大切さに気付いたことや、それらを生かした題材開発に取り組みたいなどの意見が述べられた。それに続いて「⑥まとめ」では、大坪から今回の研修の内容を学習指導要領と照らして考えるとき、小学校図画工作科における「イメージをもつこと」との関りが重要であるとの講義を提示資料とともに行った。最後に、高浜教授より版画研究室としても初等中等教育との関係性を重視しているので、これからも情報交換を行いたいとの意見があった。

 

 

■受講者からの感想(アンケートより抜粋)

・昔ながらの手軽な手法の良さも生かしつつ、様々な工夫でより豊かな表現活動につなげられると感じた。

・版画がコミュニケーションツールとして使える、もともとそのための技術だったというお話が印象に残りました。絵画としての特性ばかりに目が行きがちでしたが、デザイン、印刷技術として捉えることで新しい可能性が見いだせそうです。

・普段毎日使っている印刷機を図工の視点で使用していなかったので、視野が広がりました。学習や係活動で児童が描いた絵を印刷し本のような形にすることはありますが、図工の授業の中でも活用する方法を考えて、今後取り入れていきたいと思います。

・アートブックという表現で、配置(並べ方)や見せ方の工夫をすることは、指導事項の「A表現」(1)イのどのように主題を表すか、〔共通事項〕イのイメージをもつことが位置付き、題材としても可能性が広がると感じました。また、実演をみせてくださった田中さんが「遊んでみましょう」と何度も言っていたことからも、いろいろ試しながら表現を工夫して楽しむという図工・美術の「つくりだす喜び」にもつながると思いました。

・イメージの話が最後にありましたが、デジタル社会に生きる子どもたちはイメージが少なく、それを表現することもとても苦手です。自分ではイメージできず、作品作りでも既存の作品や教師の見本作品の影響を受けやすく、新しい作品を作り出そうという態度が少ないように感じます。小学校低学年から、短い時間でもイメージをしていく時間を作って想像していく楽しさ、それを表現する楽しさを味わわせてあげたいと思いました。

・終わってから、もっと聞いてみたかったことや伝えたいことがあったこと後悔しました。進め方が、主に見るだけになってしまい、不完全燃焼です。実技があった方がよかったと思います。例えば実際に絵本にする作業をするとか。データは、今回のように集めるのではなく、ネット配信で事前に送ってもらい、それを手順に従って印刷して準備しておくとか、いろいろ考えられます。また、テーマ別研修を、午前と午後にまたがるようにセットすれば、午後までに質問したいことをじっくり考えられたかもしれません。

・版画とは、4版種の版画だけに固執せず、「グラフィックアーツ」として捉えてよいということです。これは、自分自身の考えが固定化されていたことに気付き、衝撃を受けました。それと同時に、版画の学びにおける2階構造の概念を忘れてはならないと思いました。小学校の教育は、今後の学びの基盤となります。1階部分の指導も、6年間の学習の中で経験できるようにカリキュラムを構築していくことが必要だと感じました。

・製本することの良さについてです。絵が好きな児童は休み時間に自由帳や折り紙を使って本を自発的に制作しています。微笑ましい姿で、見せてくれる作品もとても楽しさが伝わってくるものばかりですが、今回の研修で図画工作科という教科として学級全体にその良さを感じてもらうという発想に至ることができました。私自身、幼い頃何冊も自作の本を作って、今でも探検のしおりを作り終えると達成感と形になった喜びを感じます。

・子供たちが将来、世界や文化とどう関わっていくかということが、見方・考え方を働かせることであり、図画工作科は形や色などから世界や文化と関わっていくことが教科の特質であり、存在意義である。その際、学習指導要領にもあるように、手や体全体で材料や用具と関わっていくことが見方・考え方を働かせていく上でとても大切にしていかなくてはならない。そのように考えると、ICTでの作品の共有は便利な反面、色、形、感触を体全体で感じることができない面もあることに注意しておかなくてはならない。講師の先生がおっしゃっていたように、本物の作品の色彩、形、においや手ざわりを体全体で感じることの重要性を、指導者は決して忘れてはならない。

 

 

実施スケジュール

時間 内容 研修形態(方法)
13:00〜13:05 はじめに、講師及びスタッフ紹介 リアルタイム
13:05〜14:20 ①講義:印刷技術としての版画の歴史 (高浜利也) リアルタイム講義
(パワーポイント)
②講義:版画/印刷技術から表現へ   (高浜利也)
③講義:アートブックとは      (高浜利也)
作例紹介/アーティスト作品、学生作品 リアルタイム講義
リアルタイム講義
(パワーポイントと中継)
14:20〜14:30 休憩
14:30〜15:20 ④演習:食をテーマとするアートブックの制作

・参加者の提出物を用いたアートブックの作例
及び学生作品の紹介、デモンストレーション
・原稿制作と編集、印刷、製本までハイライト動画
と実演中継解説
(所彰宏、田中千里)

リアルタイム講義・演習
(中継)
15:20〜15:40 ⑤講義・討論:解き放たれた版画・版画から
グラフィックアーツへ・印刷表現としての版画教材の可能性
(高浜利也、大坪圭輔、所彰宏、田中千里)
リアルタイム講義・討論
15:40〜16:00 ⑥まとめ:自分のイメージを持つこと

・小学校図画工作科学習指導要領との関連
・題材開発の必要性と情報の交換
(大坪圭輔、高浜利也)

リアルタイム講義・討論
(パワーポイント)
16:00〜16:10 休憩
16:10〜16:30 全体講評