日程:令和5年12月11日(月)
講師:今井由喜(渋谷区立渋谷本町学園中学校)、市川 恵(東京藝術大学)
受講者数:44名(定員 50名)
領域及び分野の系統性を見据え、
小学校から中学校の連携を図った音楽科の授業づくり
本研修は,音楽科における領域及び分野の系統性を見据えた授業づくりの課題や教材研究の方法を探究するとともに、
講師による具体的な実践提案を体験することを通し,学習改善,指導改善に結びつく視点や方法を学ぶことを目的として実施された。
学習指導要領における「音楽づくり」と「創作」の対応関係と教科書
小学校第5学年及び第6学年における「音楽づくり」と中学校第1学年における「創作」の指導事項を比較し,共通点や相違点を確認した。
それを踏まえて,教育芸術社及び教育出版の教科書に掲載されている声を素材とした音楽づくり・創作の教材を紹介し,それらが学年の発達段階に応じてどのような系統性や発展性をもっているのかについてレクチャーを行なった。
例えば,教育芸術社小学校1年生の教科書では「音をさがしてあそぼう」というテーマのもと, 生活音や環境音を探し,それを擬音語に翻訳して,よびかけ・こたえといった音楽の仕組みを用いてつくる。2年生になると,「さがしてつくろう」というテーマのもと,生活音や環境音を探し,それを擬音語に翻訳という段階は1年生と同じであるが,そこから音型化して,組み合わせを考えるという構成する段階へと発展している。
このような視点をもちながら,小学校から中学校へと,どのような発展性,系統性をもちながら題材が構成されているのかを受講生とともに考えていった。
講師による実践提案①:声を素材とした音楽づくり
今井講師がご自身の中学校で実践されている「声」を素材とした創作活動を4人グループで試した。内容は,「こんにちは」という言葉を使って,30秒から1分のアンサンブルをするというものであった。受講生たちは,さまざまな声色やイントネーション,速度,強弱,音程を用いて「こんにちは」という言葉の音声化を試した後,それをつなげたり,重ねたり,繰り返したりしながら1つの作品に仕上げていった。今井講師は,中学校1年生の授業であればこのような声かけをする等,教師の具体的な働きかけ方も示しながら進めていった。
アンサンブルの様子
受講生がつくったアンサンブルのためのメモ
講師による実践提案②:打楽器を用いた音楽づくり
続いて,身近な物や小物の打楽器を用いた音楽づくりを行なった。ここでは,教育芸術社第4学年の教科書に掲載されている「音のとくちょうを生かして音楽をつくりましょう」,教育出版第3学年の教科書に掲載されている「音のひびきや組み合わせを楽しもう」という教材を参考にしながら,以下のような図形に音を置き換えながら,自分たちが表現したい音を図形楽譜に表していった。
図形楽譜の例
今井講師からは,まず,指導上の留意点として楽器を手に取ったら,どんな音が鳴るかを知る時間を十分に取ることが大切であるというお話しがあった。また,理論に偏ってしまったり,パズルのように型に表面的な操作に終わってしまったりすることのないよう,試行錯誤しながら即興的に試すことを通して,音を音楽に構成していくという体験が重要であることも述べられた。
さらに,市川講師からは,音楽づくりの学習プロセスに関する授業研究の成果が紹介され,子どもたちは楽器の探索を通して,その楽器のもつ音色に気付いたり,楽器と自分の身体との調整をしたりしながら,自分のお気に入りの音や心地よいリズムを発見していくという学習過程が報告された。
学習指導要領における「鑑賞」の対応関係と教科書
小学校第5学年及び第6学年における「鑑賞」と中学校第1学年における「鑑賞」の指導事項を比較し,共通点や相違点を確認した。小学校では思考力・判断力・表現力等に関して「曲全体を味わって聴くこと」と記載されていること,中学校では知識に関して「(イ) 音楽の特徴とその背景となる文化や歴史,他の芸術との関わり,(ウ) 我が国や郷土の伝統音楽及びアジア地域の諸民族の音楽の特徴と,その特徴から生まれる音楽の多様性」という項目が追加されていることが,小学校との大きな違いであること等のレクチャーがあった。
それを踏まえて,教育芸術社及び教育出版の教科書に掲載されている教材のうち,小学校でも中学校でも扱われている教材に着目して,それぞれの教材の発展性について意見を出し合った。例えば,雅楽「越天楽」は小学校では歌唱共通教材として,歌詞やその意味,メロディーが掲載されている。一方,
中学校では鑑賞教材として全体の構成,それぞれの楽器の役割等が説明されており,文化への理解を醸成していく上で,小学校での学びが中学校へと繋がっていくためにどのような学習プロセスを描く必要があるか,という観点から授業づくりについて考えていった。
小学校から中学校への連続性・系統性を考慮した授業づくり
《セブンステップス》(アメリカ民謡)を教材とした幼稚園年長組での歌遊び,及び小学校1年生での歌唱活動,中学校2年生での「『小さいまとまり』と『大きいまとまり』を視点としたリズム伴奏づくり」の実践をそれぞれ視聴しながら,中学校への接続を見通した学習を進めるための課題について,受講生自身の普段の実践を振り返りながら考察を行なった。小学校では,《セブンステップス》の曲に内包されるフレーズの構造を,身体をとおして捉えていること,中学校ではそれを言語化して表現したり,「小さいまとまり」と「大きいまとまり」の構造を生かして創作したり,且つそのフレーズの長さの伸縮も柔軟に捉えたりすることができるようになっていること等が,実践からの気付きとして挙がった。
そして,その後のグループディスカッションを通して,「本日の講義や実践提案を踏まえて,自分の授業にどのように生かしていきたいですか」という問いをもとに意見交換を行なった。
時間 | 内容 | 研修形態(方法) |
9:00~9:30 | 受付 | |
9:30~10:45 | 開講式・理論研修 | 参集 / 動画視聴 |
10:45~11:00 | 休憩・会場移動 | |
11:00~12:00 | テーマ別実践研修(午前の部) | 参集 |
12:00~13:00 | 昼食 | |
13:00〜15:00 | テーマ別実践研修(午後の部) | 参集 |
15:00~15:15 | 休憩 | |
15:15~15:30 | リフレクション | 個人作業 |
15:30~16:10 | グループディスカッション | グループワーク |
16:10~16:40 | まとめと質疑応答 | |
16:40~17:00 | 調査官による全体講評 | |
17:00 | アンケート提出後,研修終了 |