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令和4年度 全国研修会レポート [テーマ別実践研修]
中学校音楽科・高等学校芸術科音楽 [中高音1]:実施担当 東京藝術大学

研修概要

日程:令和4年12月15日(木)
講師:千住 明(東京藝術大学)、佐野 靖(東京藝術大学)
受講者数:参集41名、オンライン92名(定員  参集30名、オンライン30名)

テーマ

生徒の興味・関心を高める鑑賞指導の工夫:
「音楽表現の共通性や固有性」に着目して

 

研修会の内容

本研修は、クラシック音楽からポピュラー音楽までジャンルを超えて長年にわたり第一線で創作活動を続けている千住明客員教授を講師に迎え、ジャンルをこえた音楽鑑賞における共通性や固有性について探究し、授業の工夫と改善に結びつく視点を考察することを目的に実施された。
千住氏が影響を受けた作品、音楽鑑賞に活用することができる映像作品、そして自身の作品の紹介や解説がなされ、後半に対面受講生はグループワーク、オンライン受講生は千住氏への質疑応答に分かれて進められた。そして対面受講生のグループワークにより挙がった質問に千住氏が回答する形で締め括られた。

 

まず佐野靖教授より千住氏の紹介から始まり、学校でのICT活用状況に関する質問に対して受講生が挙手で回答するなどして、タブレットの使用、タブレットでの音楽鑑賞への活用、教育的に開発されたソフトの利用、YouTubeの活用の現状などについて確認した。

続いて千住氏より作曲家の道を選ぶに至るまでの経緯が語られた。大学教授(経済性工学)だった父、画家の兄、ヴァイオリニストの妹という家族に囲まれ、父が理解できる職業が求められ、専門教育を受けるという”パスポート”が必要だったこと、中・高ではクラシック以外のロックなどの音楽を聴き、「日陰の音楽を日向に引っ張り出せ」と兄に言われたことから、音楽の道を志すようになったという。クラシックとポップスの異なるジャンルの作品を書くことは難しいと言われたが、両方を手がけてきたことに自負心があると語られた。そしてこれまでの千住氏が手がけた作品のうち代表的なオペラ「万葉集」「滝の白糸」、ドラマ「風林火山」「砂の器」などが映像と共に紹介された。

そして本題となる音楽科における鑑賞について①にて、千住氏が中学校時代の音楽の先生から勧められ邦楽に出会い、その音色に感動したことと結びつけて、授業の音楽鑑賞で選ぶ作品の重要性を説いた。”子どもは本物を感じ取る力がある”からこそ、先生が本物の演奏を選ぶ必要があるとし、鑑賞方法の一つとしてグレン・グールド「ゴールドベルク変奏曲」の1955年盤と1981年盤を例に演奏の聴き比べの提案があった。

さらにパブリック・ドメインのクラシック作品を公開しているIMSLP(国際楽譜ライブラリープロジェクト)制作のベートーヴェン交響曲第5番「運命」の映像が紹介された。2分割された画面の左に演奏動画、右にスコアが配置され、演奏の進行とスコアが連動している動画であり、視覚的に理解することで音楽が伝わりやすくなることが示された。同様に視覚的に音楽を理解する動画の例として、千住氏の大学院修了作品「電子音のためのEDEN」が紹介され、電子音が譜面におこされており、難解と思われがちな電子音楽も譜面と共に聴くことで興味を持って聴くことができるという例が提示された。

音楽科における鑑賞について②にて、千住氏は音楽鑑賞において感動を押し付けるような方法ではなく、心を無垢にさせる方法を取るべきであると説いた。教師が感動した音楽、生徒の身近にあるような音楽などはより伝わりやすいものだろうとして、音楽を超えて文学、社会にまで影響を及ぼした作品の例として、ベトナム戦争時のマーヴィン・ゲイ「What’s going on」、サイモン&ガーファンクル「明日にかける橋」、そしてディスターブによるカバー「明日にかける橋」が紹介された。

続いてIMSLPとJASRACの活動についてふれ、他国では教育活動でも著作権が発生するという例を挙げながら、JASRACの理事である千住氏は日本では教育活動において著作権が発生しないという点を強調し、子どもたちに本物の演奏を聴かせるためにバリアは取り除くべきであると話した。さらに現在、世界的に著作権を含めた権利について話し合いが行われており、世界規模で権利についての問題を解決するという動きがおこっている。その動きからIMSLPのようなパブリック・ドメインの作品が人類の財産として公開される活動がおこり、日本が中心的な役割を果たしているということが示された。

さらに、鑑賞方法の一つとして日本語と英語の作品の聴き比べをすることにも言及された。その例としてサザンオールスターズ「いとしのエリー」をレイ・チャールズがカバーしている動画が紹介され、日本語と英語の発語の違いによる作曲の難しさについて解説があった。日本語は子音がつくことから音に対して言葉を当てはめやすいが、一方で英語はそうではないため、作曲の際に歌詞に合わせてメロディーをつけることが多いとのことであった。

以上、千住氏の話を通じて多様な感じ方や価値観などを認めること、そして音楽の楽しさを積極的に見出すことの大切さを学び、自分や社会にとっての音楽の意味や役割,価値などについて捉え直す有意義な機会となった。

続いて、オンライン受講生による質疑応答に移り下記の内容の質問がなされた。
・千住先生が若い時に聴いた一生を支配するような音楽を教えてください。
・千住先生の作品の中で、どの作品を紹介したいですか。
・授業でゴールをイメージして鑑賞するということを具体的に教えてください。
・音楽は独学で学ぶことができますか。
・生徒が創作をする時の感動は、どのようにしたら得られますか。

最後に、対面受講生のグループワークにより挙がった千住氏への質問が行われた。
・千住先生が実際に授業をする場合、どの教材を使い、どのような力をつけさせたいですか。
・音楽鑑賞でポイントを絞って聴くことについて、どのようにお考えですか。
・海外でのICT活用方法について教えてください。
・エンターテイメントと本物の音楽の境界線はどこにありますか。

 

 

実施スケジュール

時間 内容 研修形態(方法)
9:30~11:45 開講式、全体研修、理論研修(教科別:文化庁による進行) オンライン
13:00~13:05 オリエンテーション、講師紹介、ICT状況についてヒアリング 参集及びオンライン
13:05~13:25 千住氏自己紹介 参集及びオンライン
13:25~13:40 千住氏作品鑑賞 参集及びオンライン
13:40~14:10 音楽科における鑑賞について① 参集及びオンライン
14:15~14:30 休憩 参集及びオンライン
14:30~15:10 音楽科における鑑賞について② 参集及びオンライン
15:10~15:30 ・グループワーク(対面):鑑賞における課題、
及び千住氏への質問について話し合い
・質疑応答(オンライン)
参集及びオンライン
15:30~16:00 グループワーク(対面)にて挙がった質問への回答 参集及びオンライン
16:20~16:40 全体講評(教科別:文化庁による進行) オンライン