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令和4年度 全国研修会レポート [テーマ別実践研修]
小学校音楽科 [小音3]:実施担当 東京藝術大学

研修概要

日程:令和5年2月13日(月)
講師:三宅悠太(作曲家)、市川恵(東京藝術大学)
受講者数:参集31名、オンライン65名(定員  参集30名、オンライン30名)

テーマ

「歌唱」と「音楽づくり」の関連を図った授業展開:
曲想と音楽の構造や歌詞の内容との関わりに着目して

 

研修会の内容

本研修では、講師の実践提案による「歌唱」と「音楽づくり」を通じて合唱への理解を深め、相互の関連を図った学習展開を受講生一人一人が経験し、授業への活用法や指導法を学ぶ内容とした。講師に多くの合唱作品を手がけている三宅悠太氏を迎え、三宅氏が編曲を手がけた《いのちの歌》(作詞:Miyabi、作曲:村松崇継、編曲:三宅悠太)を題材に、歌唱活動の実践と楽曲分析を通して表現・創意工夫につながる指導法を探求した。

 

  • 1. 曲想と音楽の構造や歌詞の内容との関わりに着目した歌唱活動
  • 楽曲の秘密を知ろう(基本編):リズムの反復と変化への着目

まず題材となる《いのちの歌》を全員で合唱し、そして「いい演奏ってなんだろう?」という講師からの問いかけに対し受講生同士で話し合い、参集の受講生3名に話し合った発表してもらった。「演奏者と聴者がともに納得する演奏のこと」「演奏者が気持ちのいい演奏ができたと感じたとき」「心をうつ演奏、つまり歌詞に込められた意図などを表現でき、それが相手に伝わったとき」等の意見がでた。それに対し三宅氏は作曲家の意見として、「楽曲の持つ魅力や美しさが引き出される演奏」がいい演奏であり、「曲の魅力を知ること」がいい演奏の出発点になると述べ、楽曲を深く理解することの重要性を説いた。

それを踏まえた上で《いのちの歌》の分析に移った。曲全体の構成をABCDで区切り、まずAの繰り返しの「リズムパターン」を確認した。付点がつく場合と付かない場合を歌い分けて、どのように印象が変わるかを受講生に発表してもらうなど、講師と受講生の対話形式で講義が進行した。

続いて、Cのピアノパートでシンコペーションのリズムが繰り返される箇所に注目し、シンコペーションが果たす役割を全体で考えた。講師からはシンコペーションにより弱拍が強調され、曲が進む、あるいはワクワクする印象になると説明がなされ、さらに歌うときの発声は「口輪筋」を意識的に動かすこととお腹から声を出すことで滑舌が良くなると述べ、実際にシンコペーションと発声を意識しながら合唱を繰り返した。

そして、歌唱表現につながる歌詞の分析に焦点を当て、例えば「人々のあたたかさ」という歌詞の意味が通じるように歌う方法を考えた。受講者からもアイディアが挙がったが、三宅氏は「人々のあたたかさ」の直前に「あたたかいブレス」を意識して準備することの大切さを解いた。

三宅氏より、合唱の指導において大切な音色についても言及があり、「息の量」「口の形」を座標軸にしてそれぞれが変化することにより表情をつけることができ、さらに姿勢を意識することで豊かに表現することができるようになると具体的な事例を交えながら話があった。

  • 2. 曲想と音楽の構造や歌詞の内容との関わりに着目した歌唱活動

事前に配布された「リズム創作を楽しもう!」の課題に取り組んだ。同じリズム(モチーフ)を4小節繰り返す4小節のリズムパターンで、そのうちの一つの四分音符を自由に書き換えるという課題である。三宅氏がこれの「答えはない」としつつも、これまでこの課題を出すと3小節目に変化をつける人が多く、実際に童謡など親しまれてきた作品でも3小節目に変化のある作品が多いことがわかった。さらに拍子を変えた課題で、リズムパターンに続くリズム創作に取り組み、それをリレーするようにロンド形式で全員で演奏した。

  • 3. 「音楽づくり」で学んだことを活かした「演奏表現」

三宅氏による《夕やけこやけ》の解説を聞いた後に、続いて《ふるさと》を題材に参集及びオンライン受講者がグループになり、それぞれ3つ目のパートにおけるリズムの変化による効果を検証した。グループワークの発表者からは、変化が生まれる箇所の「経過音」や「刺繍音」について指摘があり、それに従い、全体でもしリズムの変化がなかった場合にどうなるのかを歌唱しながら確認し、リズムの変化による効果を味わった。三宅氏からは、「強弱記号は強くする、弱くすることを目的に歌うのではなく、曲を解釈し味わった結果、自然に強弱が生まれるべきである」と付け加えられた。それらを踏まえた上で、《いのちの歌》に移り、再度グループワークによりリズム変化による効果について話し合いを行った。発表者からは付点の使われ方の指摘があった。

  • 4. 楽曲の秘密を探ろう(発展編):非和声音への着目

サビとなるBで強拍に「倚音」が頻繁に使用されており、倚音がない場合と歌い比べて、その役割と魅力を確認した。「倚音」の倚は、訓読みで「倚(よ)りかかる」というように使われ、ここでも寄りかかる音としての役割だと理解し、その上で倚音が使われない場合と使われた場合を歌い比べた。

最後に市川恵特任准教授より講義のまとめがあり、今回、合唱のテーマでリズム創作と楽曲分析というこれまでにあまりない組み合わせであったこと、そして実際に創作による原体験によりと合唱の相互を行き来することで理解が進んだという指摘があり、実際の授業での活用の提案があった。

 

  • 質疑応答

・伴奏の前奏、間奏が長い作品が増えてきた。どのように表現すれば良いか。
・音が跳躍する時の子どもたちへの声がけについて。

 

 

実施スケジュール

時間 内容 研修形態(方法)
9:30~11:45 開講式、全体研修、理論研修
(教科別:文化庁による進行)
オンライン
13:00~13:05 オリエンテーション 参集及びオンライン
13:05~13:20 《いのちの歌》を題材にした曲想と音楽の構造や
歌詞の内容との関わりに着目した歌唱活動
参集及びオンライン
13:20~14:00 楽曲の秘密を知ろう(基本編):
リズムの反復と変化への着目
参集及びオンライン
14:00~14:15 リズム創作 参集及びオンライン
14:15~14:30 休憩 参集及びオンライン
14:30~14:50 リズム創作 参集及びオンライン
14:50~15:35 「音楽づくり」で学んだことを活かした「演奏表現」 参集及びオンライン
15:35~16:00 楽曲の秘密を探ろう(発展編):非和声音への着目 参集及びオンライン
16:20~16:40 全体講評(教科別:文化庁による進行) オンライン