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令和6年度 全国研修会レポート [テーマ別実践研修]
中学校音楽科・高等学校芸術科(音楽)[中高音1]:実施担当 愛知県立芸術大学

研修概要

日程:令和6年9月30日(月)
講師:桐山建志・倉田 寛・長瀬正典(愛知県立芸術大学)
受講者数:14名(定員 50名)

テーマ

「楽器を通した西洋音楽の理解」
〜弦楽器、管楽器から音楽の魅力を探る〜

研修会の内容

「楽器を通した西洋音楽の理解」

午前の研修では、西洋音楽における器楽表現の特徴を歴史的変遷も踏まえて理解し、それを鑑賞教育指導に活かすことができることを目標に、まず時代の異なる六種類の楽譜を見比べて、古いものほど楽譜に書かれている直接的な情報が少ないことに気づかせ、楽譜に書かれていることだけでは音楽表現には不十分だということを伝えた。
続いてバロック・ヴァイオリンとモダン・ヴァイオリンの構造を比較、実際に演奏して音の違いを聴き比べるとともに、バロック時代には好んで使われていたが後に廃れてしまったヴィオラ・ダモーレという楽器の特長にもふれ、時代と共に好まれる音、音楽が変化していることを教授した。


更に西洋音楽の拍節感は基本的に上下動であり、それは弦楽器のボウイングと深い関わりがあることを説明した。
また、声楽家や管楽器奏者の息の使い方は目に見えないが、弦楽器奏者の弓の使い方は見えるので、さまざまな表現を学ぶ上で弦楽器を参考にすることは、有効であることを論じた。

午後の研修では、まず小・中・高の音楽教育に使用されるリコーダーに焦点を当て、リコーダーの歴史を多角的な角度から掘り下げ、学校教育におけるリコーダーの教育的特性に対する理解を深めさせた。
シェイクスピアのハムレットにリコーダーが登場することから、リコーダーという楽器が当時から演奏家や愛好家の中で広く親しまれていたことに着目しつつ、リコーダーの歴史を探った。
リコーダーの名称の由来record(記録する)というのが、鳥の鳴き声をrecordすることがきっかけであること、to recordという単語が古語英語では「小鳥のように歌う」という意味もみられることから、リコーダーと鳥の鳴き声の関係性を「小鳥愛好家の楽しみ」の楽曲を使用してソプラニーノリコーダーやガークライン、バードフラジョレットを使用して演奏した。
その後、時代の異なる2曲の聞き比べを行った。まずリコーダーが親しまれていた当時、約150曲の作品を残したヤコブ・ファン・エイクの作品集から1曲「イギリスのナイチンゲール」を取り上げて演奏し、作品の持つ鳥の鳴き声のような場面や、ヴァリエーションによって複雑かつ難易度が上がる表現の鑑賞を行った。次いで、現代音楽で鳥を題材としたハンス・マルティン・リンデの作品「Music for Bird」を演奏した。
この曲は鳥を題材とした楽曲ではあるが、微分音、重音、声と同時に発音する奏法など様々な特殊奏法を使用した作品となっている。古い時代の作品は自然などの描写を鮮明に行うこと、現代の作品では楽曲や作曲者の個性が反映されることを、演奏を通して実践した。
またリコーダーを多角的に知る試みとして、ルネッサンス時代やバロック時代の絵画に楽器が多く取り上げられていること、フェルメールの作品やヴァニタス画などを取り上げ、リコーダーが当時の社会の中でも大変親しまれていた楽器であることを確認した。バロック時代では、リコーダーのための作品が大変多く存在していることから、イタリア、ドイツ、フランスの作曲家の作品を倉田教授、桐山教授と共に演奏した。それぞれの国により演奏法が異なり、それが言語と深く関わることをデモンストレーションした。


これらを通して、午前中のヴァイオリンとリコーダー2種類の楽器から、西洋音楽における器楽表現の音楽性や美的感覚に関する共通性を理解するように促した。
授業者は元来よりリコーダーの教育的特性として、管楽器演奏の基礎になると考えており、トロンボーン演奏家である倉田教授にリコーダー、歌、管楽器のつながりをバッハの小フーガを通じて実践していただいた。リコーダーの息と指で奏でる音楽、歌唱におけるソルフェージュや体の使い方、マウスピースによる音程の変化、トロンボーンを使用した楽曲演奏に繋がる過程を実演していただいたことで、リコーダーが教育という範囲の中だけでなく、もっと広い世界に繋がるきっかけを持った楽器であることを受講生と共に認識した。


後半では、リコーダーの演奏指導を受けることでアンサンブルを通して、他者との調和を意識した演奏の指導方法を体験することを目標に、受講生と共にリコーダーを演奏した。
アルトリコーダーを使用した演習で、常に二重奏の形態によるアンサンブルを演奏することにより、ハーモニーの認識を深めることができた。2つの楽器の周波数の差から発生する差音の存在に着目し、差音を意識して演奏することで、和声がさらに充実した響きになることを受講生と共に実感した。


さらにソプラノ、テナー、バスリコーダーも追加して四声体のアンサンブルを行なった。まずはハーモニーの組み立て方を受講生と共に行い、指導におけるポイントを確認した。主に行なったのは和声の音程の作り方、楽器の発音方法である。その後のルネッサンス時代の舞曲を演習した、会場の響きの良さも相まって、大変美しいハーモニーを響かせることができた。
さらに、倉田教授にも加わっていただき、グレートバスリコーダー、コントラバスリコーダーを使用することで、音域が広くなり、充実した響きの演奏となった。
現代の曲としては、授業者の所属しているリコーダーアンサンブルが数年前に委嘱した作品を演奏した。絵本「手ぶくろを買いに」の物語からインスピレーションを得て、リコーダーアンサンブルによって情景が描かれた作品である。
調号や臨時記号がやや多い作品であったが、ルネッサンス時代にはない、近代、現代の和声を楽しみながら、素敵な音楽がホールに響いた。
短い時間ではあったが、演奏した楽曲は約15曲に上った。どの曲も完成度の高い音楽となったのは、リコーダーの特性でもある他の楽器にはない演奏のし易さであると考えている。少しの練習時間で完成度の高い音楽になることは、演奏することの満足感にも繋がっていくと思う。
息を使い、指を動かすことで楽譜が音楽となり、会場が美しい響きで満たされた経験を、今後の授業に活かしていただけたら幸いである。

 

実施スケジュール

時間 内容 研修形態(方法)
9:00~9:30 受付
9:30〜10:45 ご挨拶(福本泰之教授:社会連携センター長)
開講式(河合調査官)・理論研修
動画視聴
調査官による講義
11:00~12:00 講座/弦楽器の歴史、構造、演奏法を学び、音楽全般への理解を深める(桐山建志) 参集(講義)
13:00〜14:20 講座/演奏を聴き、リコーダーの歴史、種類、教育的特性を学ぶ(倉田 寛、長瀬正典) 参集(講義)
14:30〜15:20 講座/アルトリコーダーの実技演習を行う(倉田 寛、長瀬正典) 参集(演習)
15:30〜16:40 講座/ソプラノ、アルト、テナー、バスリコーダーを使用したアンサンブルを行う(倉田 寛、長瀬正典) 参集(演習)
16:40〜17:00 河合調査官による全体講評、研修会修了