日程:令和2年2月22日(土)
会場:エリザベト音楽大学 ザビエルホール/セシリアホール
講師:
志民一成(文化庁教科調査官)
壬生千恵子(エリザベト音楽大学教授:音楽教育学)
福原之織(同大学教授:音楽科教育法・オルガン)
藤尾かの子(同大学講師:幼児音楽教育学)
三村真弓(広島大学教授:音楽教育学)
林裕美子(エリザベト音楽大学教授:声楽)
柴田美穂(同大学教授:ピアノ)
志鷹美紗(同大学講師:ピアノ)
寺沢希(同大学非常勤講師:合唱指揮者)
木原朋子(同大学非常勤講師:箏奏者)
(アシスタントの人数:教職員6名、学生11名)
受講者数:18名(定員50名)
小学校音楽科教員等を対象とした中国・四国地区ブロック研修会は、全体講師に文化庁教科調査官志民一成氏を迎え、7県1市の校長・教諭・指導主事 合計16名が参加し実施された。
本研修は、これからの小学校教育に関する全体像をより深く知るための全体研修①(講演:志民一成教科調査官)、幼少期に「歌うこと」を学ぶ大切さを、音楽教育、幼児音楽教育、授業実践者、声楽家、合唱指導者等、それぞれの立場から考える全体研修②(シンポジウム)、合唱指揮者による「ワークショップ」およびその「成果発表」、そして、これからの小学校へのアウトリーチ実践のあり方を探る全体研修③(レクチャーおよび参加型実践)から構成された。オプションとして、セシリアホールでのオルガン体験研修が実施された。
「初等音楽教育の新たなる展望と可能性~資質・能力の育成に向けた授業づくり~」と題して、志民一成教科調査官による講演が行われた。新学習指導要領のめざす学びの像について理解を深めるという本研修会の目的が確認されるとともに、「音楽的な見方・考え方を働かせる」のとらえ方として、「働かせる力を育成するのはなく、資質・能力を育成するために、子どもが元来備えている力を働かせること」への解説があった。また幼稚園教育要領にうたわれている「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」が、幼保との接続の視点として重要であることが提示され、乳児、幼児の声帯の成長、声の変化などに注目し、成長の過程にふさわしい指導の選択が大切である等、具体的な示唆がなされた。
三村真弓氏、福原之織氏、藤尾かの子氏、寺沢希氏、林裕美子氏による「幼児教育から初等音楽教育へ~低学年への歌唱指導を中心に~」と題したシンポジウムでは、まず、初等音楽教育の課題、校種間の連携、幼児音楽教育者の育成、特色ある初等音楽教育の実践に関して、研究実践および現場経験に基づいた意見発表があり、幼児、児童への音楽教育の土台が「聴く力」にあることが討議された。さらに、二人の声楽の専門家から、子どもの声を育てるために、「心と声は一体である」という認識を常にもつなどの具体的な手立てが教示され、最後に会場からの「子どもの裏声を引き出すにはどのような声がけがよいか」という質問に対するサジェスチョンが行われた。
ワークショップ「そだてよう!こどもの歌声,歌心」では、参加者がこどもの立場になってステージで歌い、合唱指揮者寺沢希氏の指導を受けながら、どんな言葉が声を変えていくのか、を体感するワークショップが行われた。教科書掲載曲(「Believe」「もみじ」「夕やけこやけ」)を教材に、参加者は「指揮法」「表現力を高める適切な言葉がけ」「発問のタイミング」「効果的な指導言のタイミング」などを体験的に学んだ。歌詞をヒントに行う「ラベリング」の手法や、強弱の記載についてどの時点で子どもに気づかせるか、などの具体的な指導が展開され、楽曲の中で変化が現れたところが指導の絶好の機会であること、児童が主体的に音楽表現に取り組むための指導には、丁寧な教材研究(歌詞や音型、旋律の分析と曲の構造の把握)が欠かせないこと等が示された。ほぼ50分、参加者全員がほぼ歌い続けであったが、楽しくてあっという間に時間が過ぎてしまった、という声が方々から聞こえた。
ワークショップの成果発表は、別棟のセシリアホールに会場を移して行われたた。参加者全員によって「夕やけこやけ」「もみじ」「Believe」がうたわれ、ホールの音響を楽しみ、指導者と合唱者が一体となって音楽を表現する喜びにあふれているかのような発表の場となった。
この研修では参加者はひきつづきステージ上に、演奏者と同じ床面で,近い距離になるよう着席した。演奏者の思いや表現の迫力を間近に感じることの大切さを感じ、ワークショップでともに音楽を味わいやすい空間を創るためである。
導入として、壬生千恵子氏から、日本におけるアウトリーチ活動の変遷と多様性、学校教育への取り入れ方や現状の課題、そしてこれからの可能性について概観したレクチャーが実例を交えて行われた。音楽家の少ない地域での実施やこれからの授業展開に関するコーディネート等に関する助言が多く求められた。
続いて新な試みを導く3つの実例が紹介された。いずれもこどもたちへのアウトリーチの要点の一つである、「本物の音楽的『音』に触れ、感じること」を目的とした実践例であり、今回は小学校の音楽科教員がイメージしやすいよう、低学年、中学年、高学年に焦点をあてた形で紹介された。
ダルクローズがこどものために作詞作曲した歌を取り上げ、ソプラノ林裕美子氏、ピアノ柴田美穂氏による実践がなされた。歌詞に合わせて動きや演技を交える、歌の一部を鑑賞者がともに歌うなど「ごっこ遊び」を取り入れた演奏、林氏による発声指導法に全員が参加した。「実際に自分達が音楽のスキルを学び、それを実感できるのは、とても貴重な機会です」という感想が多数あった。
志鷹美紗氏のピアノ演奏による、モーツァルトの「きらきら星変奏曲」を鑑賞しながら、音を線や形で視覚化する活動を織り交ぜた実践がなされた。この活動は教科書にも掲載されているが、指導者側の経験値によって授業への取り入れ方には大きな差があるため、今回の活動の冒頭には、音の固まりや動きを形に描く練習も取り入れ、「できるかも」「楽しい」という感覚をつかむことを意図した。活動リーダーは福原之織氏が務めた。
木原朋子氏が、こどもたちと箏との出会いの演出について、これまで行ってきたアウトリーチ実践例と現代奏法を紹介。短い現代作品の演奏を鑑賞した後、講師が奏でる2つのコードループに合わせて、全員が一人ずつ順番に即興する方式で作品としてまとめられた。
参加者は客席に移動し、志民一成教科調査官による最後のまとめ・講評がおこなわれた。アンケート用紙記入後、すべてのプログラムを終了し解散した。
希望者11名が、セシリアホールのパイプオルガン(ドイツのクライス社製のオルガン。2740本のパイプ、46ストップ、3段鍵盤と足鍵盤を装備)を、福原之織氏による説明と手ほどきとともに体験した。初めてパイプオルガンに触る参加者も多く、好評のうちに終わった。
時間 | 内容 | 研修形態(方法) |
9:30〜10:00 | 受付 | |
10:00〜10:30 | 【全体研修1】講演「初等音楽教育の新たなる展望と可能性~資質・能力の育成に向けた授業づくり~」(文化庁教科調査官) | 講演 |
10:30〜11:30 | 【全体研修2】シンポジウム「幼児教育から初等音楽教育へ~低学年への歌唱指導を中心に~」 | シンポジウム |
11:40〜12:30 | ワークショップ そだてよう!こどもの歌声、歌心 | 実践研修 |
12:30〜13:40 | 昼食・休憩 | |
13:40〜14:00 | ワークショップ 実践発表 | 実践研修発表(合唱) |
14:10〜15:30 | 【全体研修3】「これからのアウトリーチ~ 新しい可能性~」 | レクチャーと演奏、ワークショップ |
15:30〜15:40 | まとめ・アンケート用紙記入 | |
15:50〜16:30 | *オプション研修(自由参加)パイプオルガン体験 |